Sailing in the Dawn

残酷な運命も変えなくていい。

"ほっとけない"男、城戸真司について -仮面ライダー龍騎 卒論

卒論ができ上がるまで半年もかかってしまいましたが、どうやらようやく提出できます。

今日で、真司くんに出会ってちょうど1年になりました。

 

"登場する仮面ライダーは全員死ぬ"

そんなショッキングなシリーズと知って(正義のヒーローが全員死んで終わりなんてどんな話……?というか主人公は………?)ある意味怖いものみたさ?で見始めた仮面ライダー龍騎ですが、

「もしも、他の誰かを殺すことで、どんな「願い」も叶うとしたら?」

というおそろしい主題の中で、"正義"とはなにか、善悪とはなにかを問いかけるストーリーには、つねに薄氷を踏むような緊張感が漂っていて。その中でも育まれてしまう奇妙な友情と、主人公のまっすぐな思いに、特に後半は毎週毎週泣かされました。

 

正義のヒーローの代名詞ともいえる「仮面ライダー」がエゴで殺し合いをするという破天荒なことをやってるので、昨今のコンプライアンスが叫ばれる時代には絶対に成り立たないコンテンツですし、おそらく放送当時も相当な批判があったと思いますが、こんなテーマを選んだからこそあの結末になんとしてでも、ちゃんと、たどり着きたかったんだろうなと思えます。正義の対義語は悪ではなく、相容れない別の誰かの正義だということ。みんなが正しいと思える「正義」など存在しないこと。そして何も残らない、戦いの果ての後味の悪さと、寂しさと、むなしさと……

シビアでシリアスな内容のストーリーにキャストもスタッフものめり込んで、最終話まで全速力で駆け抜けたんだろうなという物凄い熱量を感じました。制作陣の皆様もそうですが、本当に、キャストの熱演あってこそのドラマだなあと。ご本人様たちも子供向けの番組をやってるという気持ちはなかったと言うお話も聞きましたし、自分たちもこの物語がどこへ向かうのか、登場人物の一員として楽しんでいたのだろうと思います。そして、その気持ちがあるからこそ今でも大切な思い出にしてくださってるなと感じます。

全部で13人という決して少なくないライダーの数ですが全員が魅力的でした。メインの4人以外にも、敵ながら憎めないやつ、目的を同じくした仲間、何考えてるかわからないサイコパス

 

"戦わなければ生き残れない"殺伐とした世界で、色んな人に出会う中でも、まっすぐな思いを貫いた城戸真司が、私は大好きです。

ここからは真司くん(と蓮くん)への思いを、3つのテーマで思いのままにひたすら文字にした乱文長文駄文となります。まあすでに冒頭で思いっきりネタバレしてますが、この先も一生ネタバレなので未視聴の方は50話完走したらまた来てください。

 

ネタバレに配慮したつもりの完走記念、龍騎紹介ブログ↓

 

purple519.hatenablog.com

 

 

◎"仮面ライダー龍騎"という物語について


龍騎は「城戸真司が物語の主人公だが、秋山蓮がライダーバトルの主人公」だったのかなあと思います。
たった一人の妹の命のためにバトルを仕組んだ神崎士郎のせいで、意識不明に陥った恋人を助けるべく自ら叶えたい願いのために戦う。蓮くんはまさしくこの世界における「仮面ライダー」。

神崎士郎も蓮くんも大切な人の命を助けるために全力を尽くすが、そのわりに助けたい人の前ではそれを絶対に口にしない頑固者の似たもの同士なところがあると思う。そんな2人が勝ち残り、願いと命をかけて戦うことになるのだけど。

きっと神崎の制度設計的に、すべてはオーディンが勝つための出来レースみたいなものなので、叶うのは実は「新しい命」以外ありえないのでは?
だからこの2人が残るのが、神崎士郎の考えた正しいラストバトルだったと思う。それすらも仕組まれてたんじゃないかと。なにせライダーも基本はスカウトだし、デッキも神崎が選んで渡してるのだから結末から逆算してたっておかしくない。

そんな中、真司くんはこの世界にかかわってしまった一般人であり、たぶんそれはおそらく、わたしたちなのだと思う。いちばん善良でまっすぐな心を持ったわたしたち。

願いのために他人を殺せるのか?という問いかけに対して、主人公が断固反対する構図は、人が殺し合うことを是としてはいけないという、制作側からのメッセージでもあるのだと思います。

どんな理由があっても人を傷つけてはいけないこと。

そして何が正しいのかをよく考えること。

城戸真司の良いところは、バカ扱いされてるけど、なんでも正面からちゃんと考えることだと思っていて。今自分はどう思ってて、どうしたくて、何に悩んでるかを比較的共有してくれるから、登場人物が多くても、主義主張がちがうライダーが入り乱れても、わたしたち視聴者が真司くんに共感しやすくなってるのも良いなとおもう(もちろん誰を応援するかは自由だけど意図として)。だからこそ終盤、他のライダーの思いをなるべく全部受け止めようとしたことで迷走し始める真司くんを、今度は蓮くんや北岡さんと同じく、わたしたちも心配しはじめるようにできていたように思うし。
真司くんが悩み迷い、傷つきながらも前を向いて自分の答えを見つけていく姿を見て、わたしたちも一緒に考えて前に進んでいく。そんなシリーズだったと思う。

なので、真司くんは役割的に狂言回しに近く、ストーリー展開に大きな変化をもたらしたことはおそらくほぼ無くて。まあ神崎的には最悪誰が勝ち残ろうが、優衣ちゃんが無事で、最後はオーディンが勝てばそれでいいわけで、どれだけ戦いをやめろと吠えていたとしても自分からはアクションを起こさない真司くんのことはわりとどうでもよかったんだろうなとは思う。こちらから望まなくても優衣ちゃんのことは守ってくれるし。神崎士郎の思惑どおりにことは進み、進まなくなったら凶悪犯を野に放ったり、戦わない者にサバイブカードを渡したり、それでも上手くいかなければタイムベントでやり直したりして、タイムリミットまでに誰か1人になれば。

真司くんが何かを変えたとすれば、それは関わる人達の気持ちなのかな。

もともとは部外者なのに大真面目にバトルに向き合い、蓮くんや他のライダーたちに向き合う。優衣ちゃんによりそい、モンスターから身を呈して人を助ける。
だからこそ、優衣ちゃんが現実世界から消滅する直前、これでいいんだよ、そうでしょ?と最初に聞いた相手は真司くんだった。そこには戦いを止めたいと走り続けた真司くんへの信頼を感じるのだけど、当人は優衣ちゃんのことを助けたいとも心から思っているから、なにも言い返せないところがまた真司くんらしくて……でも、何度繰り返しても新しい命を拒絶し続ける優衣ちゃんの心変わりを断念した神崎士郎は、ある意味では城戸真司に負けたんじゃないだろうか。
ライダーのバトルに勝ったのは蓮くんだけど、最後の世界で、本当の意味で願いを叶えたのは真司くんなのかもしれない。本人は何にも覚えていないところまで含めて。

龍騎の物語は"ループもの"って言われてるけど、タイムベント自体は一定のチェックポイントから枝分かれする世界をつくるように出来てるんじゃないかなと考えてるので、単にやり直してるわけじゃないのではないかと。最後につくられた神崎兄妹が生存しない世界線は、優衣ちゃんが真司くんの思いを受け取って願いを叶えた時間軸でもあるんだと思ってます。きっと世界は神崎兄妹のことを覚えてないけど、全てがなかったことになったわけじゃないと信じたい。


ちなみに、個人的には27話で発動されたタイムベントで出来上がった時間軸が、もう一度2002年2月から始まる28話以降の世界で、劇場版は枝分かれしなかったほうの世界の続きなのかなと思ってます。(なので、あのまま真司くんと蓮くんはモンスターの群れに特攻して…恐らく……)そしてミラーワールドが崩壊した「秋山蓮が願いを叶えた世界」にも続きがあるのかなと思ったりもする。あの世界線も、バトルが終わりライダーが全員いなくなった世界としてあのまま続いたのかもしれない。
警察には被疑者死亡のまま送検された事件の書類が大量に作成され、花鶏では大きなバースデーケーキが手付かずのまま腐っていき、弁護士事務所には着信履歴が溜まっていく。そしてOREジャーナルには誰も使わないデスクと水玉のパソコンがいつまでも残されている、みたいな日常があるのかな、なんてね。編集長は真司くんになんて言ってくれるだろうか。「よくがんばったな」と声をかけてほしいな……。

 

 

◎真司くんと正義

"正義"という単語を辞書で引くと
「人の道にかなっていて、正しいこと」
という説明がある


では、自分の願いのためにひとをころすのは正しいのか?


真司くんはライダーたちは「正しいこと」だと思ってるから戦ってるんだとおもってて、でもそれが正しいとは思えなくてずっと悩んでいたんだよね……

最初はなにも知らなくて、ただ目の前の人をたすけたいだけだった。
お母さんがいなくなって泣いてる女の子を見て、もしかしたらあの女の子が泣かなくて済む世界があったかもしれない。

そして自分はその方法を知ってるのに、何もしなくていいのか?と

真司くんの転機になるエピソードには女の子が出てくることが多いけれど、きっと、ライダーになることを決意できたいちばんの理由が、あの時泣いてた女の子を守れなかったから、なんだと思う。ライダーや力を持つ者に守られるべき弱き者の象徴としての"女の子"ではあるけど、真司くんにとって助けるたびに毎度決意を新たにできる存在でもあるんじゃないかなと。
だから尚更、他のライダーたちが戦い合い、傷つけ合う理由がわからない。誰も傷ついて欲しくないから自分は戦うのに、なぜわざわざライダー同士で戦う?それも本気の殺し合いだなんて。

でも話はそんなに簡単じゃないことがわかってくる
他人を傷つけたとしても、そのせいで自分の心がどんなに傷ついたとしても、ライダーは皆叶えたい願いを持っていることを知ってしまうと、途端に分からなくなる

願いを叶えたいという気持ちは正しい気がするのに、

そのために他人を傷つけるのは正しくない

戦いを止めさせたいけど、願いを叶えたい気持ちは否定しきれない。

でもこれ以上の犠牲は出したくない……

真司くんがみんなの話を聞いたり、人を助けたり、バトルに巻き込まれたりしながら悩んでいる間にも否応なしに戦いは進み、真司くんの前にライダーが現れては、傷つけあって、消えていく。

戦うのなんて正しくないと思う。でも、正しいとおもう道を進むひとを止める権利は、自分にはない。



じゃあ、本当に正しいことってなんだろう?



最後の日まで、あの瞬間まで、ずっと考えていたけど
「それでも、わかんなくて」
と、自虐のように悲しそうに言う顔が忘れられない。どれだけ考えても、「正義とはなにか」「正しいことはなにか」の答えは見つからなかった。

でも、きっと正義なんてなくて。

真司くんは、自分の立場はほかのみんなとは違うと思っていたのだと思う。自分はあくまでも部外者だし、最初から叶えたいことなんてなかったけど、見て見ぬふりができなくてデッキを手にした。ただ、自分の成し遂げたいことは、みんなの「願いを叶えたい」という思いすらも潰してしまう。


でももし、叶う願いがひとつなのだとしたら。
蓮や北岡さんも、"自分が"正しいと信じた道を行き、自分の願いを叶えたいだけなのだとしたら。
………その気持ちは自分も同じなのではないか?

だから自分も、みんながこれ以上悲しまなくていいように、大切な人がこれ以上傷つかないように、戦いたい。もし、正しくないとしてもそれこそが「叶えたい願い」で、「自分の信じるもの」なんだと……

 

悩んで迷って、間違ったり躓いたり自信をなくしたりしながらも、何度でも立ち上がって目の前の命を守るために走ってきた、そんな姿を1年間見てきた。そして、最後に見つけた"願い"が、何も知らなかったまっさらな頃の真司くんが最初に抱いた思いと、同じところに着地する。それがようやく見つけた答えだと言うけど、みんな、真司くんがそう思ってることなんてもちろん知ってたんだよ。だからこそ、その真っ直ぐな思いが尊く美しく思える。
この世界の「仮面ライダー」は多くの人が思い描くヒーロー像からは程遠く、エゴで戦う者たちばかりで。自分の信じる正しさだけではみんなを助けられない、と虚しい気持ちになりながらも、誰かを救いたい、守りたいと思うことを、真司くんは自分の"願い"だと言う。それすらもエゴだと言わせてしまう世界だけど、その願いを叶えようとすることで「きっと、すげえ辛い思いしたり、させたりすると思うけど」と、さらに他人を気にかけてしまうのが甘くて優しくて。

でも、自分がどんなに辛くても、悲しくても、だれかのために戦える人のことを、わたしたちの世界ではヒーローと呼ぶとおもう。真司くんは最初からヒーローで、さいごまで、ヒーローだった。

編集長は何か隠してるだろうなと真司くんを怪しんではいたけど、まさかそんなことが自分の身近で起きているなんて思ってもみなかっただろうに、一部始終を話し終えてなお、暗い顔してる大切な後輩のためだけに的確なアドバイスができるのがさすが「編集長」だなとおもう。どこまでも人がよくてなんでも信じてしまう真司なら何に悩むだろうかなんて、そんなことはお見通しなんだろうな。
すべてが終わったころに書いてた記事の結びは
「この戦いに正義は無い。あるのは純粋な願いだけである。その是非を問えるものは……」
その先は聞けないけど、きっと真司くんの見つけた答えと同義だとすれば"無い"と続くのだろう。最後に真司くんが言いたかったことを、誰かに伝えるための文章にしたのが編集長の言葉なんだと思う。



ギーツも龍騎も「自分の願いのために戦う」という大枠は同じだけど、龍騎の切実さは願いが目の前に見えてたからかもね
世界を変えるとか人類を救うとかじゃない、
宇宙の中で1番小さな"ひとつの命"のための戦い。
妹を救う、恋人を救う、自分を救う
たったひとつの命のために自分の命を賭けるお話

鏡の中にはいったり、ライダーに変身したり、モンスターと戦ったりする行為がすべて非日常空間で行われるから(主題が人間同士のころしあいだからこそ、バトルシーン自体は殊更にファンタジックに制作されたのだろうとは思う)、物語が進んでいっても、どれだけの悲劇が鏡の中で起きても、日常はいたって普通に続いていく。
そんなほかの誰も知らない、誰にも関係ない、彼らのためだけの戦い。

三者の思惑も存在しない、損得勘定で手を組んだりしない、願いを叶えたい者たちだけが、ただひたすらそのためだけに戦うのは、原始的だからこそダイレクトに響く物語だったんじゃないかなあ。

 

 

 

◎真司くんと蓮

真司くんって編集長には「祭りの取材に行っていつの間にか神輿担いでるタイプ」とか言われてるし、「お人好し」「純粋」「バカ」っていう3単語くらいで語られてるイメージある。

序盤は本当にただのドジっ子だし、悪いことなんて考えたこともないような人(まあ、思いつきもしないようなおバカとも言うかも)なんだけど、真司くんの善良なこころって優しい、みたいなやわらかい言葉では説明しきれない、なにかもっと勢いやパワーを感じる。そもそも争いごとはニガテ、皆で仲良くしようぜみたいなタイプでは無いからなあ。ムカついたら突っかかるしケンカもするし(ただ抜けてるし、ズレてるし、突っかかる時に大抵見上げる格好になる構図含め、少し子どもっぽいところは可愛い)。ただ、人とぶつかることは厭わないけど、傷つけたいわけじゃないから言いすぎたなと思えば謝るし、よっぽどでなければ手は出さないから結局なぐられるのは自分、みたいなとこはある。怒る時も自分の事じゃないし。自分が傷つけられた時は怒るより、むしろ自分を責めて、悩む……いつもいつも他人のことばかり……

そんな真司くんのことを、わたしは"ほっとけない"人なんだな、って思ってます。

それがいいとかわるいとか損とか得とか考える前に手を伸ばす人。あくまでも、無意識に、善良な心で、全力で。
なんにでも手を伸ばしてみるから、迷うことも悩むこともあるけど、自ら立ち上がることができるし、1人で答えを出せるところが、真司くんの強さ。そしてどんな人にも正面から向き合って、他人をまっすぐに信じることができるところが、真司くんの優しさ。

甘いのかもしれないけど、それが真司くんのいいところ。

一方の蓮くんは、真司くんからしたら大抵見下ろされていてバカにされていて、突っかかっても取り合わないから余計ムカつく、みたいな感じなんだけど、振り返ってみれば蓮くんは最初から優しいひとなんだよなって思える。絆されて丸くなったとかではなく。ただ、本当は優しいひと、と言われるのはイヤなのかもしれない。勿論手を出すまでが早いのは悪い癖だし、口も悪いのだけど、他人を傷つけることで余計に自分を傷つけるタイプというか……強がってるけどナイーブでメンタル強くないし、蓮くんは真司くんと少し違うベクトルではあるけど甘いんだよなあ。
そもそも恋人をたすけるために命かけてる時点で優しいひとなんだけど、どんなに自分に言い聞かせたって非情になり切れなくて、頑なになってたんじゃないだろうかとはおもう。戦いなんて望んでもいないのに縋るように身を投じてるから、誰も知らないはずのバトルに勝手にズカズカやってきて、人の気持ちも知らずに戦うのを辞めろと言う真司くんの存在が、最初はとてつもなく邪魔だった。でも、眩しかったのかもしれない。短気で無愛想でひねくれ者で、ヒーローらしくは無いのかもしれないけど、蓮くんの本来のスタンスは真司くん側なんだろうから。なんだかんだと世話焼きなところはあるし。

すぐ感情論に偏ったようなことを言う真司くんには辛辣なことを言ったりするけど、結局裏でフォローしてしまうのが秋山蓮だから。

2人は気がつけば同じ屋根の下どころか、同じ部屋で生活するようになったはいいけど、何かにつけてすぐケンカばかりして。もちろん、戦わなければいけない蓮くんと、戦いなんてしない方がいいと思ってる真司くんの間には妥協点などみつからないのだけど、ピンチにはいち早く駆けつけてしまうくらいには、お互いがお互いを大切に思ってしまった。

友達だと、口にすることは本編では1度もなかった。
でも、敵だと思うにはあまりにも近づきすぎてしまった。

歪でまっすぐにこじらせ過ぎた関係が、私は大好きでした。

 


2人の関係はみていてずっと苦しい。伝えたいことがある時に限って、もう一方は違う方向を見てるような。そうやって感情がいつもお互いに一方通行で、伝わらないところがもどかしい。

真司くん的には蓮くんのことはずっと一緒だったし、当然特別だったとは思う。構ったって相手にしてくれなくても、帰る場所は同じだから。もちろん恵里さんのために戦いたいのはわかってるつもりだけど本当は戦いなんてやめてほしいし、ひとごろしになんかさせたくない。何より死んで欲しくない…。1番近くにいるのに1番遠くにいるような同士のことが心配だった。そんな存在がいるから、真司くんは迷ったとしても間違わずにいられたのかもしれない。ただ基本的にどんな人もほっとけないタイプだから、近くにいれば浅倉も佐野くんもとりあえずは助けるんだけど。

でも、蓮くんはきっとそうじゃないから。

こんな自分のことを心配してくれる城戸真司がいつの間にか、大切になった。それを自覚してからは重荷だった時期も長かったけど、真司くんが凹んだり傷ついたりしてる時は、お前のためじゃないと口では言うけど蓮くんが戦ってくれていた。

本人のいないところで北岡さんと一緒に「アイツはバカだが、俺やお前よりマシな人間」と評してるのも、半ば呆れながらも、他人の無事を願い、敵の死ですら本気で悲しめる真司くんのことを認めていたし、そんな姿はある意味で心の支えだったんだと思う。だから、終盤迷走して戦おうとしてくる真司くんが心配になるし、もう自ら攻撃する気なんておきなくなって。戦うな、止めろと言わないと不安になるほど、まっすぐに真っ当なことを言う真司くんを失いたくなかったんじゃないか……。

でも、そんな感情をなるべく出さないように、なるべく気づかれないようにしていたから、本人にはあんまり伝わってなかったところが蓮くんの意図としては正しいんだけど、寂しくて切ない。真司くんはキャラ的に友達だろ?オレたち、とか言えそうなのに、蓮はオレのこと友達だとは思ってないかもしれないし……とか考えてたんじゃないかと想像してしまうし、蓮くんも口にしたら負けというか、認めてしまったらもう二度と戦えない気がして言わなかったんじゃないかなとか。矛盾した感情を認めたくなかったのかもしれない。

 

だから、もう立っていられないほどに血を流し、途切れ途切れに自分の願いを見つけたことをつたえる真司くんの横で涙が止まらない蓮くんを見ると、ひたすら胸が痛い。もう感情を隠そうにも隠せないほどに、蓮くんにとっては真司くんが大切だったんだなって。

 

「死ぬな……!死ぬな!!」と隣で大泣きする蓮くんに対して、
「お前がオレにそんなふうに言ってくれるなんてな……」って真司くんはさいごにすこし嬉しそうな顔をするんだよね……
だれにも聞こえないさいごの言葉は「ちょっと、感動した」なのだと聞いた時は何も言えなかった。道半ばだけど、死んだら終わりなんだけど、女の子は助けられたし、蓮には伝わってたんだなって思えたから真司くんとしては満足だったのかもしれない。残された蓮くんは悲しくて悔しくて虚しくて、気持ちのやり場もなくてへたり込むしかなかっただろうけど。また俺は目の前で大事な人を失ったのだと。

 

最後は、蓮くんが勝ち残り、「新しい命」を手に入れるのだけど、恵里さんのために戦ってきたのに、先に思い出したのは目の前で失った優衣ちゃんと真司くんの顔だったのが、嬉しいような悲しいような。勝ち残った時、そこには誰もいない。2人のことが脳裏によぎったのは、もう一度会いたいと思ったからなのかな……
恵里さんが目覚めた時には、蓮くんは満足そうに永遠の眠りについていたけど、自分が勝って元の日常を取り戻し、2人で平穏に暮らす未来はとっくに見えてなかったのかもしれない。そんなふうに割り切れるほど、蓮くんは冷たい人間じゃないから。自分だけが幸せになれるなんて。
だから願いが叶えばそれで良かったし、むしろこうなることをどこかで望んでいたかもしれない…自分勝手だときっと怒ると思うけど勘のいい恵里さんは全部わかった上で、わたされた指輪を大切にしつづけてくれるとおもう。


すべてが終わり再構築された世界で、もう一度すれ違う真司くんと蓮くんは他人でしかないけれど、蓮くんは"すべてを覚えている"上で真司くんに余計な声をかけないのが「真司と蓮」の関係性をよく表していると思うのです。あの日々を一緒に過ごしただけの仲、敵でも味方でもなかったはず。友達だと言ったことは無いし、勿論仲良くなりたかったわけでもない。今となっては共有できる話題もないのだし。

でも、自分にとって死なせたくないひとだった。

大切な人には何でもいいから生きていて欲しいと願う蓮くんにとって、二度と握り返してこない手の冷たさを覚えているからこそ余計に、出会った頃と同じテンションでこの街に生きている真司くんを確認出来ればそれで充分だったんじゃないかな、と。きっとその先も、たまに花鶏にきてそっとあの日々を懐かしんだり、ズーマーで元気に走り去るオレンジのヘルメットを見かけて安心したり、してたらいいなあ、なんて

友達として改めて仲良くしてて欲しい気持ちもちょっとはあるけど、でもなんだかそうじゃない関係が好きだから。戦いがあったからこそ出会った2人だから、この先も2人の関係性はあの日々の中だけで完結してるくらいがきっと丁度いい。蓮くんが思い出の中にだけ留めているくらいで丁度いい。

それでもあの辛くて痛くて悲しい日々はたしかにあったよね、と思えるくらいが。

 

 

「真司くんと蓮のことを忘れないでね。」

というメッセージ付きのCMが放送当時あったと聞きました。

この戦いは無かったことになったけど、わたしはずっと真司くんが何を思って、何を信じたか覚えていたい。

お人好し、というよりは後先も自分の危険も考えずに走り、他者のことばかり心配するドジでまっすぐな愛すべきおバカ、城戸真司の物語は曇天の寒空の下で幕を閉じましたが、わたしの中ではこれからも、真司くんは月明かりのない夜空に一筋駆けていく流れ星のように煌めく、No.1ヒーローです。

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